当院院長が学長を務めておりますIMIC:ISHIKAWA Manipulation International collegeのホームページにて掲載しているコラムです。
定期的に掲載しておりますのでご一読頂ければ幸いです。
今回のコラムをこちら石川カイロプラクティックのホームページにも掲載致します。
「患者さんを守るために」
私は毎朝自身のオフィスに出勤するとパソコンを開いて、タイムリーなニュースに一通り目を通しながら、一日の臨床業務の準備をします。
AI機能によって私に関わるニュースやトピックがどんどん飛び込んできますが、先日「整体・カイロプラクティックの頚椎矯正が危険」というようなテーマの記事を目にしました。
この記事を読むと、私の立場上何とも複雑な気持ちになってしまい、一日のスタートには相応しくないかなと思いながらも記事に目を通しました。
ボキボキと関節音を鳴らす整体・カイロプラクティックの矯正法は極めて危険であり、効果もないという医師の立場からの見解を示すものでした。特に頚椎に対する関節矯正が危険であるという内容でした。
最近はSNSなどでも「関節矯正・ボキボキ矯正」といってその強烈な動画がアップされている現状を知人から教えてもらいました。その様子はまさに危険そのものであり、目を疑うものでした。
まるで何かのエンタテインメントかのように、ただインパクトのある動画を撮るためだけの強烈な力を込めた矯正を披露している様子でした。
医学をご専門とする医師の先生方から、一色淡にこのような評価を受けてしまうことは仕方のないことだと思ってしまいます。
カイロプラクティックは世界80ヶ国以上に広まり、西欧など34の国と地域で正式に法制化され、国連のWHO(世界保健機関)では鍼灸と並んでその安全性と有効性を認められている国際的な代替医療です。残念ながら日本では法制化されておらず、その現状は他の先進国から問題視されています。
世界にはWHO(世界保健機関)が定めた「CHIROPRACTIC:カイロプラクティック」というものがあります。WHOはカイロプラクティックの専門従事者になるための教育基準を定めています。
国際基準のカイロプラクティック教育とは、4200時間に及ぶ基礎医学とカイロプラクティック臨床学を学びインターン実習の全過程を修了し、卒業要件として300人前後の外来患者臨床実習とそのケースレポート、画像所見の読影報告、卒業論文の提出と発表など全ての要件を満たすことが義務付けられています。
現在日本におけるWHO基準に則ったカイロプラクティックのライセンスを取得した専門家は、カイロプラクティックを名乗る施術者全体の3パーセント程であり、代替医療の先進している国々に比べ大きな遅れをとっているという現状があります。
鍼灸、あん摩・マッサージ、柔道整復は国家資格ですが残念ながらカイロプラクティックに関する法律が日本には未だありません。そのため、専門的な学識や技術を基礎から着実に身につけることなく、短期のスクールやセミナーに参加し、患者さんの施術に当たってしまう方も少なくないと思います。
身体に関する専門的な説明や身体の評価がなく一方的な施術である場合や、商品などの販売を強要される場合などはそのような未修学な施術者である可能性が高いと思われます。
そんな多くのトラブルが国民生活センターに届いてる現状ですが、法律規制がないためにそれを取り締まれないのが今の日本の現実です。
さらには、日本には「整体」という文化があり、カイロプラクティックとの混乱を招いていることも正しいカイロプラクティックの普及を遅らせている大きな要因のようです。
日本においてはカイロプラクティックと整体はどう違うのか、それぞれがどんなものなのか、まだまだ国民の皆様に正しく衆知をいただけていない現状があります。
カイロプラクティックの中に「整体」というテクニックはありません。
「整体」という看板を掲げている整体院や接骨院・整骨院の中には、カイロプラクティックを行っているという表現・記載もありますが、そもそもカイロプラクティックはその一部分だけを提供できるものではありません。
カイロプラクティックは米国で誕生し西洋医学に基づき研究され学問として体系づけられた代替医療であり、本来整体という表現に属するものではありませんが、「カイロプラクティック」というカタカナ名称が受け入れられ難く、「整体」「整体院」という言葉の方が日本人にとって馴染み易く理解されやすいということが大きな要因となっているようです。
またカイロプラクティックの中には様々ないくつもの「学派」「派生」と呼べるものがあり、特にどこのカイロプラクティック大学で学んだかによって、それぞれの特色があることもまた、業界のまとまりを難しくしている一面かと思います。
関節矯正という言葉で分かりやすく表現をしましたが、これもまたカイロプラクティックの数ある様々なテクニックの中の一つであり、「Adjustment:アジャストメント」「Manipulation:マニピュレーション」またその矯正手法の種類により「Thrust:スラスト」と呼ぶスピーディーな手技から「Mobilization:モビリゼーション」と呼ぶ比較的リズムカルでスローなテクニックまで様々なものがあります。
これらのテクニックは全てを手技で行う方法もあれば、専用の器具や機器を用いる方法も存在します。
いずれにせよ、全ては「諸刃の剣」だと私は思います。
一方では非常に役に立つ有用なものが、他方では大きな害を与える危険もあるものと言わざるを得ません。
この言葉の意味は、それだけ全ては簡単ではないということです。
外科医のメスひとつ、料理人の包丁ひとつ、美容師のハサミひとつ、鍼灸の針ひとつ、カイロプラクティックの手技ひとつ、どれも簡単なものは一つもないし、すべて一つ指先が狂えば取り返しのつかないものです。これは一比喩ではなく現実です。
スラストをしなくても、軽いタッチでも圧の入れ方と方向を間違えれば高齢者の肋骨は簡単に折れてしまうかもしれないし、一見健康そうな方でも病態を確認せずに手技を行えば、どんな事故が起こってもおかしくありません。
だから、我々は長い月日をかけて学び続け、いくつもの試験や課題をクリアしてはその能力を確認されインターンとして何度も厳しい訓練を受けて、卒業後もブラッシュアップを続けることで、ここに立ち続けています。
世界のカイロプラクティックは長い歴史の中で、患者さんの力になれるカイロプラクターを育成するために大学教育に発展させ、数々の理論やテクニックの有効性はどうなのか、安全性は保てるのか、世界中で様々な研究が重ねられ、そのエビデンスの構築は今もな発展を続けています。
その一方で、この日本においてはこのようなカイロプラクティックのグローバルスタンダードを理解することなく、自分本位なテクニックを患者に施したり、それをメディアに掲載したりという行為は、それ自体がカイロプラクティックの将来性を損なうものであり、実直にこの仕事に誇りを持ち、日々患者さんの為に役に立ちたいと研鑽する我々の存在そのものを傷つけるものです。
日本国内においても、その価値を理解して欲しいと願うのは、それによって救われる患者さんが山ほどいることを身をもって日々痛感しているからです。
私は国内におけるカイロプラクティックの国際教育プログラムの専門教育機関の脊椎・四肢関節に対するアジャストメントの元専任講師です。
アジャストメントは諸刃の剣であること、その危険性を反復して教育し各々のテクニックの概念、一つ一つの手順、細かな注意点を一つ一つ学生に伝え反復練習を課します。
学期末の試験では実技試験が実施され講師数名でそのテクニックの理解度、安全性の確保、正確性などを詳細に評価します。合格点に満たない場合は追試験が課せられます。
関節音を鳴らすだけなら何の学識も技術も必要ありません。腕力さえあればだれでもできる容易いものです。それをするかしないかは個人の勝手かもしれませんが、そんな行為も規制できない我々の無力さを痛感せざるを得ません。
私のオフィスには県内の他の治療院等で頚椎の矯正を受け、頚部に外傷のような症状が残り、相談に来られた方が数名おられます。重症な方では、上部頚椎の椎間関節捻挫のような強い炎症反応と神経過敏、ならびに血管迷走神経反射と思わる多彩な不定愁訴が出現し、
通常の生活が困難となり、家族の介助なしに生活ができなくなった方もおられました。
これはアジャストメントではなく暴力であり、許されない傷害罪です。
このようなケースでは殆どの場合、何のインフォームドコンセントもなく、なかば強制的に強引に矯正行為が行われて事故が生じています。
逆にいえば、カイロプラクターであるならば術前の説明は十分に行われ、安心して心地よくアジャストメントが施されるはずです。
当カレッジ:IMICにおいて私はCCE(世界カイロプラクティック教育審議会)の国際承認を受けた全日制カイロプラクティック大学教育フルプログラムを卒業し、WHO(世界保健機関)の傘下WFC(世界カイロプラクティック連合)の日本代表団体:JAC(日本カイロプラクターズ協会)に所属する国際基準のカイロプラクターとして、倫理規定を遵守する義務があるため、本講座内においてカイロプラクティックにおけるアジャストメントテクニックを教授することは致しておりません。
正規のカイロプラクティックを学び、アジャストメントのスキルを確実に習得したいとお考えの方はぜひJAC(日本カイロプラクターズ教会)の教育安全プログラムにご相談ください。
いつの日か、カイロプラクティックが安全で有効なものとして評価され、統一された教育基準のもとに多くの悩める方々の選択肢となることを心から願っています。
石川貴章